技術リファレンス

ISRC、ISWC、UPC/EAN — 録音・楽曲・商品を識別するということ

確認日 2026-09-07

最初に結論

ISRC は「録音」に付く12桁の英数字コードです。曲でもアルバムでもなく、ある一回の録音・一つのミックス・一つのマスターに対して1個。構成は国名コード2桁+登録者コード3桁+年次コード2桁+レコーディング番号5桁で、日本の国名コードは "JP" です。ハイフンは印刷したときの読みやすさのための区切りであって、コードの一部ではありません。チェックデジットはありません。ISWC は「楽曲」(作品)を識別し、UPC/EAN(日本では JAN コード)は「商品」を識別します。つまり、アニメ主題歌の TV サイズとフルサイズとオフボーカルは3つの録音なので ISRC は3つ、作品としては同じ1曲なので ISWC は1つ、それらを収めた初回限定盤と通常盤は2つの商品なので JAN は2つ、という数え方になります。この三層を取り違えることが、日本の権利者にとって最も金額の大きい事故です。


1. 三つの識別子は、三つの別のものを指している

ISRC(International Standard Recording Code, ISO 3901)は録音を指す。 国際的な登録機関は IFPI で、各国の登録代行機関がプレフィックスを割り当てます。日本国内の窓口は一般社団法人日本レコード協会(RIAJ)です。RIAJ の ISRC サイトは footer で「一般社団法人日本レコード協会は国際管理機関 IFPI に指名されている日本国内ISRC登録代行機関です」と明示しています(isrc.ne.jp)。

ISWC(International Standard Musical Work Code, ISO 15707)は楽曲を指す。 CISAC の体系で、書式は T-123.456.789-C(T のあと9桁の数字とチェックデジット1桁)。数字自体に地域や作家の意味は埋め込まれていません。JASRAC の作品データベース J-WID は ISWC 欄について「CISAC(著作権協会国際連合)で決められた世界共通の国際標準作品コードが表示されます」と説明しています(J-WID 表記説明)。自分で採番するものではなく、管理事業者や音楽出版社が作品を登録する過程で付きます。

UPC / EAN(GS1 の GTIN)は商品を指す。 日本ではこの13桁を JAN コードと呼びます。GS1 Japan は、13桁標準タイプが「GS1事業者コード」+「商品アイテムコード」+「チェックデジット」で構成され、GS1 Japan が貸与する事業者コードは「45」または「49」で始まると説明しています(GS1 Japan)。品番(レーベル独自の型番、例:XXCA-12345)とは別物で、JAN は流通側の識別子です。

ISRC は「鳴っている音そのもの」、ISWC は「楽譜として書かれた曲」、JAN は「レジを通る箱」。日本の音楽ビジネスは、この三つが別々のデータベースで別々に照合されることで動いています。

RIAJ 自身が ISRC のメリットとして挙げているものの一つが「放送二次使用料分配のキーとしての利用」で、「ISRCを利用した商業用レコードの放送二次使用料分配が始まっています」と書かれています(isrc.ne.jp/about/merit.html)。原盤側の実演家・レコード製作者への分配が ISRC で回り始めているという意味で、これは「付けなくても配信はできる」段階が終わりつつあることを示しています。


2. ISRC の構造 — 12桁を一文字ずつ

JP-AA0-26-01234 のように区切って書きますが、実体は JPAA02601234 の12文字です。

要素桁数内容
プレフィックスコード(国名コード)2英字。ISRC 付与時点で登録者の本社が所在する国。日本は JP
プレフィックスコード(登録者コード)3英数字。国内 ISRC 登録代行機関が割り当てる
年次コード2ISRC を割り当てた西暦年の下2桁
レコーディング番号5登録者がその年に採番する連番

RIAJ の記述をそのまま引くと、国名コードは「ISRCが付与された時点での登録者の本社が所在する国を識別するコードです。このコードは、英字2文字で構成され、日本は"JP"です」、登録者コードは「国内ISRC 登録代行機関が割り当てた英数字3桁で構成されます」(ISRCの構成・様式)。

ハイフンは表示上の約束にすぎない

RIAJ は運用まで含めて明記しています。「ISRCを印刷等で視覚的に表すときは、冒頭にコード識別子"ISRC"の文字をつけ、続いてISRCの4つの要素を相互にハイフン(‐)で区切って記述してください。ただし、データ登録するときやCDやDVDなどにISRCをエンコードするときは、ハイフン(‐)は入力しません」(同上)。IFPI の ISRC Handbook も「The letters 'ISRC' (the space) and the hyphens do not form part of the ISRC」(§5)としています。

実務上の意味は単純です。配信の納品仕様書やディストリビューターの入力欄は12文字を期待しているので、JP-AA0-26-01234 を貼るとバリデーションで弾かれるか、最悪の場合ハイフンごと文字列として登録されます。Excel の管理表ではハイフンなし12桁・書式は文字列で持ってください。

チェックデジットは無い — これが一番危ない仕様

JAN にはチェックデジットがあり、ISWC にもチェックデジットがあります。ISRC にはありません。仕様のどこにも規定がないので、1文字打ち間違えても「形として正しい別の ISRC」になります。機械的に検査できるのは形状(英字2+英数字3+数字2+数字5、実在する国名コード、ありうる年次)だけです。

JAN の打ち間違いは自分のチェックデジットに引っかかって止まる。ISRC の打ち間違いは何事もなかったかのように通過して、他人の録音の口座に振り込まれる。

だから ISRC は手入力しない。必ずコピー&ペーストし、1リリース分を1枚のマスターシートに対して突合します。

年次コードは「録音した年」でも「発売年」でもない

RIAJ の定義は「レコーディングに対してISRCが割り当てられた年を識別するコード」で、さらに注記があります。「*年次コードは、著作権保護開始年を意味するものではありません」(ISRCの構成・様式)。IFPI も「the year in which the ISRC is assigned may be a different year from the year of recording」と述べています(IFPI ISRC structure)。

2024年に録った劇伴を2025年12月に採番し、2026年4月クールで放送・配信する場合、年次コードは 25 です。これは正しい状態なので「直して」はいけません。ISRC から年を読み取って年表を作る、という運用は最初から間違いです。

日本固有の採番ルール:レコーディング番号に 00000 は使わない

RIAJ は「レコーディング番号は"00000"を除く5桁の数字が付与されます」と規定しており、Uプラン(登録者自身が付番するプラン)で付番できる数を「年間で最大99,999個(1登録者コードにつき)」としています(各プランの違い)。海外の解説では「00000〜99999 の10万個」と書かれることがありますが、日本国内の登録代行機関の運用は99,999個です。自社で連番を機械生成するなら、00001 始まりにしてください。

日本での取得方法(J/U/M の3プラン)

RIAJ は3つのプランを用意しています(各プランの違い)。

  • Jプラン(事務局・発行管理プラン) — 「ISRC事務局で付番」。費用は「1レコーディングにつき:330円(税込)」で、「※1レコーディング=1楽曲(1トラック)」。定期的なリリース実績がない個人・少数リリースの制作者向け。
  • Uプラン(ユーザー発行・管理プラン) — 「登録者自身で付番」。「ISRC 12桁のうち5桁が固定、残り7桁(年次コード、レコーディング番号)を登録者自身が付番します」。申請要件は「年間50レコーディング以上の定期的な製作又は発売予定があること。(50レコーディングは目安です)」。年間事務手数料は初回年が登録月により11,000円〜2,750円(税込/オーディオのみ)、「翌年以降の年間事務手数料は、1プレフィックスコードにつき11,000円(税込)」。
  • Mプラン(ISRCマネージャー発行・管理プラン) — 「自ら権利を有しないレコーディングに対して、ISRCの付番・管理・運用業務を、レコーディング製作者(又は権利者)に代行して行える制度」。年間事務手数料は220,000円(税込)。ディストリビューターやレーベル代行業がこれに当たります。

全プラン共通の要件は「日本に居住していること」、J/U プランは「オーディオレコーディングの原盤権*所有者、又は音楽ビデオレコーディングの著作権所有者であること」。RIAJ は原盤権を「著作権法上のレコード製作者の著作隣接権(複製権、送信可能化権、譲渡権、貸与権)を総称したもの」と定義しています(同上)。

ここから直ちに導かれる実務上の結論が一つあります。同人・インディーで「ディストリビューターが自動発行した ISRC」を使うのは正常です(それが Mプラン=ISRC マネージャーの仕組みです)。ただしプレフィックスは発行元のものなので、ディストリビューターを乗り換えると既存録音の ISRC はそのまま持って行く/新規録音は新しいプレフィックスになるという形になります。カタログのプレフィックスが混在するのは欠陥ではありません。欠陥なのは、同じレコーディング番号を二つの録音に振ってしまうことです。


3. アニメ・ゲーム音源 — 世界で最も識別子密度の高いリリース文化

日本の識別子運用が難しいのは、単に非ラテン文字だからではありません。1曲が同時に6種類以上の録音として存在し、それが複数の商品にまたがって載るからです。これは海外のポップスのリリース設計にはほとんど存在しない構造です。

架空の例で通しましょう。TV アニメ『蒼穹のリフレイン』のオープニング主題歌「アカツキ・シグナル」(作詞・作曲:架空の作家、歌:架空のアーティスト)。このタイトルは、通常こうなります。

#バージョン実体主な収録先
1TV サイズ(約90秒)OP 映像尺に合わせて編集した別マスター配信先行シングル、キャラソン EP のボーナス
2フルサイズシングル表題曲主題歌シングル(全形態)
3オフボーカル(カラオケ ver.)フルサイズからボーカルを抜いた版シングル通常盤
4TV サイズ・オフボーカル1 からボーカルを抜いた版初回限定盤特典ディスク
5キャラクターソング ver.(声優によるカバー)別歌唱・別録音キャラソンアルバム
6劇伴アレンジ(サントラ収録のインストゥルメンタル編曲)別編曲・別演奏オリジナルサウンドトラック

さらにアーティスト側のオリジナルアルバムに 2 がそのまま収録され、ベスト盤にも 2 が入り、数年後に「10th Anniversary Edition」として同一マスターが再発される、という展開が普通に起きます。

どれに新しい ISRC が要るのか

判定は一つの問いに還元できます。リスナーが聴く音声ファイルは別物か?

新しい ISRC が必要(=上の1〜6は全部別コード)

  • TV サイズ(#1) — 尺を詰めるための編集は別録音です。IFPI Handbook は編集について「A version that is edited, for example to mute or replace profanities, shall be assigned a new ISRC」(§A.9.4)とし、非創作的な尺変更でも10秒を超える変化を新規付番の目安として挙げています(§A.10.2、IFPI FAQ)。90秒と4分半では議論の余地がありません。
  • オフボーカル/カラオケ ver.(#3, #4) — Handbook は「A version of a track where the vocal (or other element) has been suppressed shall also be assigned a new ISRC if it is intended for release」(§A.9.14)。RIAJ も日本語で同じことを書いています。「同じ楽曲でも、ライブバージョン、カラオケバージョンなど、別レコーディングの音源には、それぞれ異なるISRCを付番します」(isrc.ne.jp)。カラオケ ver. に本編と同じ ISRC を振るのは、日本で最も頻繁に見る誤りです。
  • キャラクターソング ver.(#5) — 別の実演家による別の録音。ISRC は当然別。ISWC は同じ(同じ楽曲だから)。
  • サントラ収録の劇伴アレンジ(#6) — 別編曲・別演奏なので別録音。編曲によっては ISWC 側でも編曲著作物として別作品コードが立つことがあります(作品の登録実務は JASRAC/NexTone 側の判断です)。
  • ライブ音源 — 「The live recording is completely different from the studio version and a new ISRC is required」(§A.9.1)。ワンマンライブの Blu-ray 特典 CD も同じです。
  • リミックス — 「A remixed version of a recording will differ from the original and hence it shall be assigned a new ISRC」(§A.9.8)。

新しい ISRC は不要

  • フルサイズ(#2)がアーティストのアルバムに再収録されるとき — マスターが同一なら同じ ISRC。商品が変わっても録音は変わっていません。
  • ベスト盤・コンピレーションへの収録 — 同上。JAN は新しく取りますが、ISRC は据え置きです。
  • 配信ストアの追加、配信解禁地域の拡大、ジャケ差し替え、価格改定 — 録音への変更ではありません。
  • 原盤の権利者が変わったとき — Handbook は「If the original Registrant sells or licenses the recording in unchanged form after it has been given an ISRC, no new ISRC shall be assigned and the ISRC for the recording shall remain the same」(§4.6)としています。レーベル移籍や原盤譲渡で振り直してはいけません。
  • 10周年記念盤で同一マスターを再発するとき — 音が同じなら ISRC も同じ。ここで新規発行すると、10年分の再生回数・チャート実績・二次使用料の登録が新規録音として切り離されます。

リマスターは「常に新規付番」ではない

日本語の解説記事では「リマスターしたら新しい ISRC」と単純化されがちですが、IFPI Handbook の条件はもっと狭い。§A.10.1 は次のように書きます。

"A new ISRC shall be assigned if (and only if) the processes applied to a recording during re-mastering involve the application of creative input to the recording itself."

そして Handbook は、レベル調整、時間変化しない EQ、時間変化しないコンプレッション、ノイズ除去、クリック除去、速度・ピッチ補正、サンプリング周波数変換、ディザリングを明示的に除外し、「A new ISRC shall not be assigned in the context of essentially invariant or technological adjustment processes」としています(ISRC Handbook §A.10.1)。

つまり、2005年の CD 音源を配信用に 44.1 kHz のまま持ち上げてディザをかけ直しただけの「配信用リマスター」は、規格上は新規付番の理由になりません。逆に、マルチトラックに戻って各パートのバランスを取り直したなら、それはリマスターではなくリミックスであり、§A.9.8 の話になります。

安全に言える実務上の但し書きは一つだけです。リマスター音源をオリジナルと並べて別トラックとして販売するなら、それは別商品なので独自の ISRC が必要です。同じストアに同じ ISRC の2トラックが並ぶ状態は作れません。


4. 初回限定盤・通常盤・アニメ盤 — 複数の JAN、重なり合う ISRC

日本のフィジカル市場は、同一タイトルを複数形態で同時発売する慣習が強く残っています。主題歌シングル1タイトルが、たとえば次のように展開します。

  • 初回限定盤(CD+Blu-ray) — フルサイズ、カップリング、TV サイズ、TV サイズ・オフボーカル + 映像
  • 通常盤(CD のみ) — フルサイズ、カップリング、フルサイズ・オフボーカル、カップリング・オフボーカル
  • アニメ盤(CD、アニメ描き下ろしジャケット) — フルサイズ、TV サイズ、劇中インスト
  • 期間生産限定盤 — 通常盤と同内容、ジャケットと帯のみ差し替え
  • 配信版 — フルサイズ、カップリングのみ

ここでの正しい状態は次の通りです。

JAN は形態ごとに別。 初回限定盤・通常盤・アニメ盤・期間生産限定盤は流通上の別商品なので、それぞれ独立した13桁の JAN を持ちます。配信版もストア上の一商品としてリリース識別子(UPC/EAN)を持ちます。品番(XXCA-12345/B のような型番)も形態ごとに異なりますが、これはレーベル内部の管理番号であって JAN の代わりにはなりません。

ISRC は録音ごとに一つ。形態をまたいで使い回す。 初回限定盤の1曲目のフルサイズと、通常盤の1曲目のフルサイズと、アニメ盤の1曲目のフルサイズは、同じマスターなら同じ ISRC です。ここが最大の落とし穴です。

日本のマルチフォーマット・リリースで最も多い事故は、形態ごとに ISRC を新規発行してしまうこと。「初回盤用の ISRC」「通常盤用の ISRC」という管理表を作った瞬間に、1つの録音が3つの録音として世界中のデータベースに登録されます。

この事故の帰結は地味に致命的です。放送二次使用料の分配、配信の再生回数集計、チャート集計は ISRC を軸に走るため、同一録音が3つに割れると、それぞれが3分の1の実績しか持たない別々の録音として扱われます。合算されないまま、どこにも申し立てできません。

正しい管理表はこうなります。

商品(形態)JANトラックISRC
初回限定盤JAN-A01 アカツキ・シグナルJPAA02600101
初回限定盤JAN-A02 カップリング曲JPAA02600102
初回限定盤JAN-A03 アカツキ・シグナル (TV size)JPAA02600103
通常盤JAN-B01 アカツキ・シグナルJPAA02600101 ←同じ
通常盤JAN-B03 アカツキ・シグナル (off vocal)JPAA02600104
アニメ盤JAN-C01 アカツキ・シグナルJPAA02600101 ←同じ
期間生産限定盤JAN-D01 アカツキ・シグナルJPAA02600101 ←同じ

ISRC 列に重複があるのは正常、というのがこの表の読み方です。重複していてはいけないのは「異なる音声ファイルに同じ ISRC」であって、「同じ音声ファイルが複数商品に載る」ことではありません。

なお、CD への ISRC エンコード(サブコードへの書き込み)とメタデータ上の ISRC が食い違うと、CD リッピング経由の照合と配信側の照合が別の答えを返します。プレス工場に渡すカッティング指示書の ISRC と、配信納品スプレッドシートの ISRC は、必ず同じ1枚のマスターシートから生成してください。


5. 民謡・邦楽 — 「伝統曲」が正直なときと、作曲者を消しているとき

日本の曲目には、クレジット欄で「日本古謡」「わらべうた」「作曲者不詳」と書くのが正しい曲と、書いた瞬間に実在の作曲家を消してしまう曲が混在しています。ここは識別子の話であると同時に、事実関係の話です。

「伝統」が正直な場合。 「さくらさくら」は江戸期の箏の手ほどき曲を起源とし、特定の作曲者が確定していません。「ソーラン節」「炭坑節」「安来節」といった民謡も、旋律そのものについては個人の作曲者を立てられません。この場合、作曲欄に「日本古謡」「民謡」と書くのは記述として正確です。ISWC は旋律そのものには付きませんが、あなたが作った編曲には ISWC が立ちうるし、あなたが録った演奏には必ず ISRC が要ります。

「伝統」がクレジットの消去になる場合。 分かりやすい実例が「琵琶湖周航の歌」です。長く「作曲者不詳」「旧制三高の寮歌」として流通していましたが、原曲が吉田千秋(1895–1919)の「ひつじぐさ」(1915年発表)であることが判明したのは1993年でした。新潟市の紹介ページは「吉田千秋が『琵琶湖周航の歌』の原曲の作曲者と判明したのは平成5年(1993年)でした」と記しています(新潟市秋葉区)。保護期間は満了していますが、保護期間の満了と「作曲者不詳」は別の話です。作曲者が判明している以上、クレジットは「作曲:吉田千秋」であって「日本民謡」ではありません。

同じ構図は邦楽(箏曲・地歌・長唄・尺八本曲)に、より広く当てはまります。宮城道雄の「春の海」は「和風の定番曲」として扱われがちですが、明確な作曲者のいる近代の作品です。流派の家元に帰属する手事物や新曲も同様で、「古典」という言葉が「作者不明」を意味しない領域です。「江戸期以前に成立し作者を特定できない」ものと、「明治以降に個人が作曲したが有名すぎて出所が意識されなくなった」ものを、同じ『伝統曲』欄に流し込まない。 これが実務のルールです。

保護期間そのものについては、文化庁が改正の効果を次のようにまとめています。「原則として著作者の死後 70 年までとなります」、そして施行日について「TPP11協定の発効日が平成 30(2018)年 12 月 30 日となったことにより,著作物等の保護期間の延長を含めた著作権法改正が同日から施行されることとなり」、遡及については「改正法の施行日である平成 30(2018)年 12 月 30 日の前日において著作権等が消滅していない著作物等についてのみ保護期間が延長されます」(文化庁「著作物等の保護期間の延長に関するQ&A」)。個別の曲について「もう切れている」と判断するときは、この施行日の前日時点で消滅済みだったかどうかを必ず確認してください。ここは思い込みで処理してよい場所ではありません。

編曲者自身の権利と、識別子の付き方

パブリックドメインの旋律を編曲した場合、判断は二段構えになります。

  1. 録音(ISRC) — 議論の余地なく新規付番です。あなたの演奏は誰の演奏とも違う録音です。「ソーラン節」を三味線・津軽じょんから風のアレンジで録るのも、和太鼓アンサンブルで録るのも、シンセで再構築するのも、それぞれ別 ISRC。
  2. 作品(ISWC) — 原旋律は PD のままですが、あなたの編曲が創作的であれば編曲著作物として管理事業者に登録できます。この場合クレジットは「日本民謡/編曲:あなた」であって、「作曲:あなた」ではありません。作曲欄に自分の名前を入れると、他人の編曲版の分配まで巻き込む誤登録になります。

「PD だからクレジットは空でよい」は最悪の選択です。ISWC が立たず、編曲者の取り分が主張できず、しかも配信ストア側では「作曲者不明の曲」として他の PD 録音と束ねられます。


6. カバーとトリビュート — 新しい録音、既存の楽曲

日本のカバー文化(歌謡曲カバーアルバム、VTuber のカバー動画、トリビュート盤、声優によるアニソンカバー、ボカロ曲の「歌ってみた」の商業リリース化)は、識別子の観点では極めてシンプルです。

  • ISRC — 必ず新規。あなたの歌唱・演奏は新しい録音です。
  • ISWC — 変わりません。原曲の作品コードのまま。カバーだからといって新しい作品コードは立ちません。
  • JAN — 新商品なので新規。
  • 権利処理 — 原盤(ISRC 側)はあなたのものですが、楽曲(ISWC 側)は原作者・音楽出版社のものです。録音物として配信するには複製権・送信可能化権の処理が必要で、日本では JASRAC または NexTone の管理曲であればそれぞれの手続きに乗ります。管理事業者に委託されていない曲(管理外・出版社直接管理)は個別交渉です。

トリビュートアルバムを1枚組むと、この構造が全部一度に出てきます。12曲すべてに新しい ISRC を12個、ISWC は原曲12作品のもの(自分では採番しない)、商品としての JAN は1個。ここで「原曲の ISRC を引き継ぐ」と考えると全部壊れます。ISRC は録音のコードであって、曲のコードではないからです。

カバーとは「新しい ISRC を作り、既存の ISWC に接続する行為」である。この一文で日本のカバー実務の識別子側はほぼ説明がつきます。

7. JASRAC と NexTone — 日本には著作者側の管理事業者が2つある

ISWC と作品登録の話をするとき、日本には他国と違う事情が一つあります。著作者側(作詞・作曲・音楽出版)の管理事業者が複数あることです。多くの国では作家側の集中管理団体は事実上1つですが、日本では2000年の著作権等管理事業法の施行以降、複数事業者が参入しています。

JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会) は1939年11月18日設立、事業は「音楽の著作物の著作権に関する管理事業」を中核とします(JASRAC 会社概要)。作品データベース J-WID は作品コードと ISWC の双方を表示し、作品コードについては「JASRACにおける作品管理上の番号が表示されます。内国作品は数字8桁、外国作品は8桁のうち、左から2桁目がアルファベットです」と説明しています(J-WID 表記説明)。JASRAC の作品コードは ISWC ではありません。 納品メタデータの ISWC 欄に8桁の JASRAC 作品コードを入れるのは、国際的な照合の観点では誤りです。

NexTone(株式会社NexTone) は自社 FAQ で「2016年2月、この2社が合併・事業統合を行って誕生したのが『株式会社NexTone』です」と説明し、2000年以前は「一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)が、法律(著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律)で唯一認可された管理事業者でした」と経緯を記しています(NexTone FAQ)。管理範囲については「管理区分を拡大してきた結果、現在NexToneは、下図の(6)以外の区分における管理を行っています。権利者はどの区分の管理をNexToneに委託するかを自由に選択できるようになっています」としています(NexTone 著作権管理サービス)。

実務上の帰結は次の3点です。

  1. 1曲を調べるのに、少なくとも2つのデータベースを見る必要がある。 J-WID に無いから管理外、とは言えません。NexTone 管理かもしれない。
  2. 支分権(管理区分)単位で管理先が分かれうる。 NexTone は権利者が委託する区分を選べる仕組みなので、「録音(複製)は NexTone、演奏権は別」といった状態が原理的に起こります。カバーやトリビュートの許諾を取るとき、「どの利用について、どこが管理しているか」を確認する必要があります。
  3. 納品メタデータ側では、どちらであっても ISWC が国際的な共通鍵になる。 society-specific なコード(JASRAC 作品コード、NexTone の作品番号)は国内の運用番号であり、海外の DSP や海外の管理団体との照合には使えません。

なお、NexTone が CISAC 加盟団体であるかどうかについては、本稿の執筆時点で一次情報として確認できる記述を見つけられなかったため、断定を避けます。ISWC の付与実務がどちらの事業者を経由してどう行われるかについても、両社が公開している範囲を超えた記述はここでは行いません。確認できないことは書かない、というのがこの種の文書の唯一の安全策です。


8. UPC / EAN / JAN — 商品の識別子とチェックデジット

UPC-A は12桁、EAN-13 は13桁。日本の商品は通常13桁の JAN コードを持ちます。UPC-A の先頭に 0 を1つ足すと EAN-13 になり、チェックデジットは変わりません。

理由は、重み付けが右端から数えられているからです。チェックデジットは最右端。その一つ左から左方向へ ×3, ×1, ×3, ×1 … と交互に重みが付きます。この並びはチェックデジットの位置を基準に定義されているので、左側にいくら 0 を足しても既存の桁の重みは一切ずれません。追加された 0 が寄与するのは 0 × 30 × 1、どちらにせよ 0 です。合計が変わらないので、チェックデジットも変わりません。

GS1 の計算手順は、各桁に交互の係数を掛け、「add results together to create sum」、そして「subtract the sum from nearest equal or higher multiple of ten」です(GS1 Check Digit Calculator)。また GS1 は保存形式について「GS1 recommends that GTIN is always stored as a 14-digit number in the data bases. Shorter formats should be filled in with leading zeroes up to 14 characters」と推奨しています(GS1 EDI technical user guide)。社内の管理表でもこれに倣って14桁ゼロ詰めで持つと、Excel が先頭の 0 を食う事故が構造的に起きなくなります。

手計算:UPC-A 86430519274?

チェックデジットの前の11桁は 86430519274。右から重みを付けます。

右から数字重み
1番目4×312
2番目7×17
3番目2×36
4番目9×19
5番目1×33
6番目5×15
7番目0×30
8番目3×13
9番目4×312
10番目6×16
11番目8×324

合計:12+7+6+9+3+5+0+3+12+6+24 = 87

87 以上で最も近い10の倍数は 90。90 − 87 = 3

したがって UPC-A は 864305192743

EAN-13 化。 先頭に 0 を足して 0864305192743。チェックデジット前の12桁は 086430519274。右から数えた11桁分の重みは1桁も動かず、新しく加わった先頭の 0 が12番目の重み ×1 を取って寄与 0。合計は 87 のまま、10の倍数は 90、チェックデジットは 3。予告どおり変わりません。

検算のやり方。 生成ではなく検証したいときは、チェックデジットも ×1 として含めて全桁の重み付き合計を出し、10で割り切れることを確認します。864305192743 なら 87+3 = 90。割り切れます。

日本の JAN-13 を1本、最初から計算する

GS1 Japan の事業者コードは「45」または「49」で始まります。ここでは構造説明のための番号として 456930172854? を計算します。チェックデジット前の12桁は 456930172854。右から:

4×3=12、5×1=5、8×3=24、2×1=2、7×3=21、1×1=1、0×3=0、3×1=3、9×3=27、6×1=6、5×3=15、4×1=4。

合計:12+5+24+2+21+1+0+3+27+6+15+4 = 120

120 はすでに10の倍数です。この場合チェックデジットは 0。完成形は 4569301728540。「10の倍数ぴったりのときは 0」という分岐は、手計算で最も間違えられる箇所です(9 と書いてしまう人が多い)。

注:864305192743 および 4569301728540 は計算手順を示すために構成した番号であり、特定の商品を指すものではありません。

ISRC の形式チェックと UPC/EAN/JAN のチェックデジット検証は、mazufa.com のブラウザ内で完結する無料ツールで確認できます(音声も番号も端末の外に出ません)。

チェックデジットが検出しない誤り

この方式は1桁の誤りをすべて検出しますが、隣接桁の入れ替えは全部は捕まえません。差が5の隣接ペア(0と5、1と6、2と7、3と8、4と9)を入れ替えると重み付き合計がちょうど ±10 変化するため、チェックデジットは有効なまま通ります。チェックデジットが通ったことは「正しく打てた」証明であって、「自分の番号である」証明ではありません。 必ず取得元の書面と突合してください。


9. 日本の現場でよく起きる事故

形態ごとに ISRC を振ってしまう。 前述のとおり最頻の事故。原因はたいてい「初回盤/通常盤/アニメ盤」でシートのタブを分け、タブごとに連番を振ったこと。シートは録音単位で1行にし、商品側は JAN 列で持つ設計にしてください。

オフボーカルに本編と同じ ISRC を振る。 カラオケ ver.、インスト ver.、TV サイズ・オフボーカルはすべて別録音です。RIAJ が名指しで例示している通りです。

同一マスターの再発で新規発行してしまう。 ディストリビューターの入稿画面に「ISRC をお持ちですか」というチェック欄があり、空欄のまま進むと自動発行される。10周年盤・配信解禁・レーベル移籍のとき、必ずこの欄を埋めます。

JASRAC 作品コードを ISWC 欄に入れる。 8桁の内国作品コードは ISWC ではありません。ISWC は T で始まる書式です。

「作曲:日本民謡」で片付けてしまう。 作曲者が判明している近代作品を伝統曲として登録すると、遺族・出版社側の分配が止まり、あなたの編曲の権利も主張できなくなります。

品番と JAN を混同する。 XXCA-12345 は品番、4569301728540 は JAN。配信の UPC 欄に品番を入れる誤りは、フィジカル出身のレーベルでよく見ます。

CD サブコードの ISRC と納品メタデータの ISRC がずれる。 これは最も静かで最も高額な失敗です。リリースは問題なく出て、再生数も伸び、数か月後に「なぜか二次使用料の照合に乗らない」形で表面化します。プレス指示書と配信納品書を同一のマスターシートから出力してください。


10. 再生数が入金になるまでの経路

  1. 再生が起きる。 配信事業者は自社カタログ上の録音に対して再生を記録し、あなたが納品した ISRC に紐づけます。
  2. レポートが出る。 利用レポートは ISRC 単位、リリースは UPC/JAN 単位で届きます。原盤側の金額は「1再生いくら」の固定単価ではなく、プール収益をストリームシェアで割った結果です。Spotify は per-stream rate を支払っていないと明言しており、収益はプールされ、シェアで分配されます。
  3. ディストリビューターが照合する。 ISRC と UPC でカタログと突合し、明細を作ります。あなたのカタログに存在しない ISRC の行は、あなたの明細には現れません。
  4. 著作権側は別経路で走る。 楽曲(ISWC)に対する使用料は JASRAC/NexTone が徴収・分配します。原盤側とは別のパイプライン、別のスケジュール、別のお金です。
  5. 著作隣接権(二次使用料)。 商業用レコードの放送等二次使用料の分配に ISRC が使われ始めていることは、RIAJ 自身が明記しています。
  6. 入金。 源泉徴収の扱いを経て着金します。

全ステップが識別子による結合(join)で、join は失敗しても例外を投げません。ISRC が壊れれば原盤側の金が浮き、ISRC–ISWC の接続が壊れれば作家側の金が浮き、JAN が壊れれば商品単位の照合ができなくなり、音源とメタデータの ISRC がずれれば全部が同時に壊れます。

作業自体は地味です。リリースごとに1時間。トラック名、バージョン表記、ISRC、ISWC、作家分配、商品ごとの JAN を1枚のシートに持つ。識別子の列は文字列書式にする。ISRC は納品時ではなく制作終了時に採番する。JAN のチェックデジットを検算する。音源に埋め込まれた ISRC がシートと一致することを確認する。そのうえで明細に抜けがあったとき、初めて「本来こうなっているはずだ」と主張できる根拠を持てます。


クイックリファレンス

ISRCISWCUPC-A / EAN-13(JAN)
識別対象録音楽曲(作品)商品(リリース)
規格ISO 3901(IFPI/国内は RIAJ)ISO 15707(CISAC)GS1 GTIN-12 / GTIN-13
桁数英数字12桁T+数字9桁+検査数字12桁 / 13桁
チェックデジット無し有り有り
TV サイズは別コード?要る不要(同じ曲)商品が変われば別 JAN
カラオケ/オフボーカルは?要る不要(同じ曲)同上
カバーは?要る不要(原曲の ISWC)新商品なので新規
初回盤/通常盤で?不要(同一マスターなら同じ)不要形態ごとに別 JAN
同一マスターの再発は?不要不要通常は新規
リマスターは?創作的入力があるときのみ(§A.10.1)。別商品として並売するなら要る不要別商品なら新規

Mazufa の配信は無料で、アップロード料・月額・リリースごとの課金はなく、差し引くのは受領したロイヤリティの5%のみ、申請はすべて人が確認します。


出典

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メタデータをストアのルールと照合する
タイトルに入ったフィーチャリング表記、括弧書きのバージョン情報、アーティスト名欄に紛れ込んだ検索ワード。発売直前の金曜日に届く差し戻しは、たいていこれです。入稿予定の内容を入力して、いま確認してください。処理はすべてブラウザ内で行われます。
ISRC とバーコードを確認する
あなたの収益を運ぶコードは二つあります。録音物を識別する ISRC と、リリースを識別するバーコードです。どちらかの数字が一つ違えば、印税は別のところへ流れます。コードを貼り付けて、入稿前に確認してください。
リリース日から逆算して組み立てる
リリースで逃す機会のほとんどは、才能ではなく締切を逃した結果です。配信を始めたい日を入力すれば、そこから逆算した日付付きの工程がそのまま手に入ります。取り返しのきかないプレイリスト申請の締切も含めて。
ストアに変えられる前に、マスターを確認する
ミックスを読み込むだけで、統合ラウドネス、トゥルーピーク、ラウドネスレンジを配信サービスと同じ方法で測定し、各サービスが実際に適用するゲイン量まで表示します。解析はブラウザ内で行われ、ファイルが端末から出ることはありません。